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第七十二回 198X年12月25日 (4)
柴崎さんとの電話のあと、僕は部屋で寝転んだ。
部屋の中のチラシやビニール袋や脱ぎ捨てたコートが、もう殆ど暮れてしまった夕陽に染まっているのを眺めているうちに、眠ってしまった。 

気がついたらすっかり夜になっていた。 そのままじっとしていたら、少しずつ目が覚めてきた。 暗闇にも目が慣れてきて、眠る前に見ていたコンビニ袋なんかの形がよく見えるようになってくる。 すぅーっと息を吸い込んで吐いた。 頭の中は冴えていて、腕のだるさなんかも随分ましになっていた。 
僕は起き上がって蛍光灯をつけた。
部屋が明るくなると、急に部屋が狭くなったような気がした。 さっきまで眺めていたチラシやビニール袋が、ただのゴミ屑に見えた。 

お腹が空いていたので、何か買ってこようと思ったが、お金が殆ど無かった。 小野さん家のテーブルにあった一万円を借りてくるのを忘れたのに気づいた。 「あぁ〜、しまったなぁ〜」と思わず口に出してしまった。 

柴崎さんの言葉を思い出し、掃除をすることにした。

僕は、まず、押入れに入っている物を全部出した。 花柄模様が毛玉で歪んでしまった毛布、カツミが時々置いていったヤングジャンプ13冊、注ぎ口が欠けてしまった急須、どこで何のために拾ってきたのかすっかり忘れてしまった赤レンガ2つ、折りたたんだビニール袋やレシートが詰まった紙袋、そんなものが次々と出てきた。 そして、押入れの中がようやく空いた頃には、それらはどうやって押入れに入ってたのか分からないくらいに、部屋中を埋め尽くしていた。 僕は一息ついて、水を飲み、それから部屋中に広がったそれらを、捨てるものと捨てないものに分けた。 捨てるものはビニール袋に詰め、一杯になったら口をぎゅっとしばる。 捨てないものは、それまでよりいくらかキチンと部屋に並べた。 それでも捨てないものが減らないので、捨てないものの山から、また捨てるものを選び出した。 そんな事を3回ばかり続けて、ようやく分別が終わった。

ヨウが残した僕の絵をどうするかは、最後まで迷った。 手にとって眺めているうちに、一枚の絵の裏側に何かが貼り付けてあるのに気がついた。 チューリップ畑と風車の絵葉書だった。 剥がして見ると、それはヨウから僕に宛てたもので、とても短い挨拶のような文面だった。 消印もないところを見ると、きっとヨウはオランダでこれを書いて、ずっと出さずにいたんだろう。 
僕はその葉書だけを残して、他は全部捨てることにした。

そのあと雑巾を絞り、拭き掃除を始めた。 目覚まし時計もどこかに行ってしまって、今何時なのかさっぱり分からない。 まず最初は柱を拭いた。 カツミが鉛筆を差し込んだ穴に、雑巾をねじって差し込んで拭くと、雑巾の先が真っ黒になった。 カツミが消そうとしていた落書きの跡には、消しゴムカスが詰まっていた。 
それからカーテンレールを拭き、窓を拭いた。 冷え切った手が冷たくて、何度も手を止め、息で指先を温めた。 窓に映った自分の顔を見ると、知らない間に涙が出ていた。 泣いている自分の顔を見ていると、どういう訳だか分からないが涙が止まらなくなった。 それで、僕は一旦掃除をする手を止めて、泣き止むのを待つことにした。 それでも涙はなかなかおさまらず、僕は何度もしゃくりあげた。 そして、こんなに涙が出るのは、きっと、とても腹が空いているせいだろうと考えた。
| 西岡宏輝 | 11:40 | comments(0) | - | pookmark |
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