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第六十七回 198X年11月27日
数日後、大きな封筒がアパートに届いた。
差出人の名前は加瀬さんだったが、宛名の筆跡はヨウのものだった。
封筒の中には、僕が描いてヨウに渡した絵が数枚と、誰かの手紙が入っていた。
手紙の差出人と宛名を見ると、それが、カツミがヨウに宛てて送ったものだと分かった。

カツミからヨウへの手紙

「ヨウへ

カツミです。 手紙を貰ってから、僕はヨウのこと、ユウスケのこと、そして僕自身のことをとてもたくさん考えました。 ヨウがユウスケのことをいくら好きだとしても、ヨウには僕のことを知ってもらうことがとても重要だと思ったので、僕自身のことをきちんと書くことにしました。

前にも言ったことがあるけど、僕は小野家の実の子供じゃありません。 
僕とユウスケは施設で育って、もらい子として小野さんの家の子供になりました。 実は小野さんの他にも、僕を養子に迎えたいという話があったのですが、僕はユウスケと一緒でなければイヤだという条件を出して譲らなかった。 

施設では、僕の他にも何人もの子供達が貰われて行きました。もし里親候補の人が現れたら、その人と対面するときに、女の子は必ずリボンを着け、男の子は新しい靴を履かされました。 そうする事がいい事だと教えられていたし、先生は親になりたいという大人達に気に入られるようにいつも身ぎれいにしなさいと言っていた。 僕は一日も早く施設を出たかった。 施設の外には素晴らしい世界が待っていると聞かされていたし、ここを出ればもう園長先生に呼ばれてあんなことをしなくてもいいからです。 

ところが、最初に僕を養子に欲しいという人が現れたその日、ある事件が起こりました。僕より前に、ある夫婦に貰われて行ったケイジが戻ってきたのです。 
その夫婦連れが初めて施設にやってきたとき、オミヤゲに名前も知らない外国のチョコレートを持ってきました。 そのチョコレートを口にした途端、とろけるような甘さが口の中に広がって、「あぁ、毎日こんなのを食べたいなぁ」と僕は本気で思いました。 それで、その夫婦が来た時に、ことさら僕は子供らしく大きな声で笑い、走り回るようにしました。 大人はそういう子供が好きなんだと思ったからです。 でも、彼らが選んだのは、大きくて薄い色の瞳と栗色の髪をしたケイジでした。
そのケイジがどういう訳かまた施設に戻ってきた。 僕はひょっとしてケイジが何か変わったお菓子を持っているのかと思って、食堂に入った彼のところに行きました。 ケイジは閉まったままの窓枠に向かってパイプ椅子に坐っていました。 僕が行っても、ケイジは無表情に外を眺めているだけで笑いもしなければ、何の反応もしない。 どうしたのかと聞いても、何も答えない。 僕も何も言う事がなくなってしまって、風が鉄の窓枠を揺する音を聴いているうちに、どうして自分がケイジの前でこうして立ってるのかすら分からなくなってしまいました。 それで、何も言わずに廊下に出て、じっとしていました。 外は曇っていたけれど、廊下には雲の切れ間から差した日溜りがあって、そこにゴムボールが転がっていました。 僕はしゃがんだまま、そのゴムボールに当たる光をじっと眺めていました。 その時、ふと気づいたのです。
きっと、ケイジも園長先生に呼ばれていたんだ、ということを。

しばらくして、ケイジがあの夫婦の家を出た理由は、持病の喘息の発作が頻繁に起こったせいだ、という噂が流れました。 その日から、僕は考えました。 ケイジは、どうして駄目だったんだろう? 僕は、ただ単にお金がある人を探すだけじゃなくて、僕達のような人間でも嫌われない方法をちゃんと考えなきゃ駄目なんだと思い至りました。

次の日、砂場に掘ったトンネルにミニカーを通して遊んでいたときに、たまたま横に居たユウスケに「ねぇ、好きな人に嫌われたくないと思ったら、どうする?」と、聞いてみたのです。ところがユウスケは、何を言ってるのか分からないという顔をして、何も答えません。 仕方なく、「例えばさ、いろいろ好きな人とか、嫌われたくない人っているじゃん?」と僕は言いました。 するとユウスケはこう答えるのです。 
…嫌われたくないなんて、考えたこともない…
もしかして、こいつは馬鹿なんじゃないか、と僕は思いました。 それと同時に、こんな考えが浮かんだのです。 
…ユウスケのような奴が居れば、僕は嫌われない…
次の日、僕は先生に、もし僕を引き取りたい人がいても、ユウスケと一緒に、兄弟として引き取ってくれる人じゃなきゃ嫌だ、と頼んだのです。 
その時、僕を引き取りたいと言っていた夫婦は、僕のこの条件を聞いて、「ウチじゃ二人も面倒見るだけの余裕がない」と断ってきたそうです。 つまり、僕がこの条件を出すことで、相手の経済的な余裕まで測ることが出来るようになったのです。

そして、最終的に僕達を引き取ってくれたのが小野さん夫妻でした。 小野さんは、まさに僕の理想の夫婦であり、両親だった。
例えば僕達が正式に小野さん達の養子になって最初の日の夜、小野さんは、僕達二人を呼んで、自分達のことを無理にお父さん、お母さんと呼ぶ必要はない、と言ってくれた。 僕は、きっと小野さん達はお父さんお母さんと呼ばれたいんだなと思ったので、だから次の日、朝起きたときに、「おはようございます、お父さん、お母さん」と最初に挨拶をしてみました。 すると小野さん達は本当に嬉しそうな顔をしたので、僕は自分の想像が間違ってなかったと確信しました。 
ところが、ユウスケです。 ユウスケは二人のことを、小野さん、香子さん、と呼び始めたのです。 僕はユウスケの事をバカだと思いました。 どうして、小野さんに喜んでもらおうとしないんだろう、そう思いました。
小野さん達は、ユウスケのそんな態度を目の当たりにしても、ユウスケと僕に何一つ分け隔てすることなく接しました。 僕はますます小野さん達への信頼を深め、もっと二人に自分を気に入ってもらいたい、と思うようになりました。
学校に行けば、誰よりも勉強をし、スポーツだって、誰にも負けないくらいに熱中しました。 中学に入ると迷わずサッカー部に入りました。 小野さんはサッカーがとても好きで、学生時代にもサッカーをやっていると聞いていたからです。 高校のとき、インターハイの準決勝で負けてしまったときの話を、いつも、とても残念そうに、そして、嬉しそうに話すのです。 僕が父さんの夢を叶えてあげるよ、僕はいつもそう小野さんに言うようにしていましたし、そう言うたびに、小野さんは本当に嬉しそうに目を細めて笑うのです。

でも、ユウスケです。 ユウスケは、小野さんと香子さんが、いかに僕らを愛そうとも、全くそれに応えようとしない。 そればかりか、喧嘩や万引きなど問題ばかり起こす。 その度に父さんと母さんは、ユウスケのために仕事を休み、学校に出向き、同級生の家に詫びに行き、また時には警察まで出向く。 その度に心を砕く二人の姿を見て、僕はユウスケを軽蔑し、さらに良い子であろうと努力しました。 ユウスケが問題を起こせば起こすほど、父さんと母さんの愛情が僕に向くと思ったのです。 ところが、家で二人が話すのはいつもユウスケの話ばかり。 小野さんも香子さんもユウスケと僕を同等に扱うばかりか、むしろ問題ばかり起こすユウスケにばかりに気を取られている。 
そのことに気付いてから、僕は小野さんにユウスケを一緒に引き取ってもらったことを後悔するようになりました。

だから、ユウスケが家を出て、一人暮らしを始めたときには、僕は本当に嬉しかった。 そして、実際に、その日から、ようやく二人の本当の息子になったような穏やかな日々が始まりました。 毎日、学校から帰り、夜には一緒に食事をし、父さんと母さんと、お互いのことをゆっくりと話す、本当に僕が望んでいた時間がやってきたように思いました。 自分は間違っていない、そう思えるようになり、そのうちにサッカーも海外での試合が決まり、ユウスケに感じていた、トゲトゲした感情はだんだんと消えていきました。

ヨウに出会ったのは、丁度そんな頃のことです。 

ヨウがユウスケに惹かれているのは出会った頃から、なんとなく感じていました。 でも、僕自身もヨウに惹かれていくにつれて、ヨウがそれまでの人生で得ようとしても得ることの出来なかった、「家族」や「変わらない愛」、というものを埋めることが出来るのは、ユウスケじゃなくて僕の方なんだろうと感じていました。 だから、ヨウがどうしてユウスケのような人間に惹かれるのか、まるで納得が行かなかった。 そういう思いが募れば募るほど、ユウスケがヨウに相応しくない人間であることを早くヨウに知らせなきゃならない、と僕は考えるようになりました。 
そして、僕は彼のルーツを調べることにしました。 そのことについて、僕は施設で少し噂を聞いたことがあったのです。 ある調査会社に、彼のの生い立ちについて調べてもらうように依頼しました。 誰にも…もちろん小野さん達にも…その事を知られたくなかったので、調査結果はユウスケの家に送ってもらうようにしました。 ユウスケが、僕から頼まれて受け取ったのが、自分の生い立ちの調査結果だった、ってことを考えただけで僕は興奮しました。 
でも、面白かったのはそこまででした。 
調査の結果、色々と分かったこともあったのですが、僕は気づいたのです。 
きっと小野さん達もユウスケの生い立ちなんてとっくに知っていたんだろう、ということを。 
誰にも、なんにも、知られていないのは、むしろ僕の方だってことを。 
僕がしたかったことは、本当は、ヨウに何か告げることじゃなかった、と分かったのです。 
僕は、何も伝えたくなかったんだ、と気づいたのです。 

そして、僕は昨日、ヨウから、はっきりと僕の敗北を告げる手紙を受け取りました。 だいたい予想していた通りの内容でした。 僕にとって、このことは決して思いがけない事ではなかったし、この先も、僕自身の定めたルール通りに行動するだけです。 だから、ヨウも、ユウスケも、これから僕の取る行動について、何ら気に病む必要はないのです。  

小野勝己」

カツミが、はしゃぎながら、児童公園でヨウのことを話す姿を思い出した。
なぜタカコさんが、ヨウを「自分達」から遠ざけようとしたのか、ヨウとカツミの、何が同じだったのか、そういうことに僕はその時はじめて触れた。 
カツミが死んだ日、ヨウがカツミに電話を掛けてきたのは、この手紙を読んだからなんだと理解した。 

僕は手紙と絵を封筒にしまって、押入れに入れた。 
| 西岡宏輝 | 23:33 | comments(0) | - | pookmark |
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