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第六十五回 198X年11月24日
 電話をするたびに、僕はイライラが増すらしい、ということが少し分かってきたので、朝は電話をせずに線路の絵を描き、昼になってアルバイトに行った。 

昼の仕事が終わったあと、アパートに戻り、絵を描いた。 この前思い出した、巨大な船から見下ろした波と海の絵を想像しながら描いた。 描き始めてみると、工場の絵をなんかを描いているときよりもずっと面白い。 架空の絵を描くということは、普段描いている絵とは全然違うことを考えながら描くということが分かった。 一言で言うと、「これしかない」というものを見つけて決める、ということだ。 そして面白いことに、「これしかない」というものは、案外、ひとつでも色とか空間が決まると、そのあとは自然と決まっていくということが分かった。

そんな風にして、2日間が過ぎた。
天気が良いので、午前中に洗濯をした。 洗濯機を回している間に、ヨウに電話をすることにした。
2回コール音が鳴ったあと、ヨウが出た。
「…もしもし…」
「…あぁ…僕…ユウスケだけど…」
「…あぁ…」
まさかヨウが電話に出るとは思っていなかったので、正直、何を話していいのか分からなかった。
「……」
「…どうしたの?…」
「…あぁ…いや…」
「退院したのよ」
「…あぁ…そうだね…おめでとう」
その言葉に続けて、色々とありがとうございました、とヨウが言った。
それでもう、僕は喋ることがなくなってしまった。 
「…えぇっと…」
「……」
ヨウも何かを話す様子もない。
「…えぇっと…あのさ…」
「…ん?…」
「絵を描いてる」
「…あぁ、絵ね…そう…」
「ヨウの絵も描いてる」
「…へぇ…」
電話では、ヨウの顔が見えないので、ヨウが喜んでいるのか、そうでもないのかよく分からない。
「また絵を見て欲しいんだけど」
「…どういうこと…」
「うまく、描けないんだ…」
「今、加瀬さんの家に住んでるの。」
「…あぁ、そうなの…?…」
…あぁ…、という声が裏返ってしまった。
「…」
ヨウは黙っている。
洗濯機のモーターが、本体を揺らしながらグゥン、ガゥンと響いているのに気づいた。
「…もう…来たくないでしょ…」
ヨウの声は小さくて聞きとりにくい。
ブーッとブザーが鳴って、洗濯機のモーターがゆっくりと止まり始める。
「…いや…そんなことないよ…」
反射的にそう言った。
ぅわん、ぅあん…とモーターのスピードがだんだん遅くなり、それから小刻みにガガガガっと振動してから、洗濯機が止まった。
「…そうだ…明日、仕事が休みなんだ…だから行くよ…」
そうだ、仕事が休みなんだ、と自分で思い出しながら言い聞かせるように、僕は言った。
ヨウは黙っている。
「…そぅ…」
ヨウは、しばらく沈黙したあと、こう言って電話を切った。
| 西岡宏輝 | 22:46 | comments(0) | - | pookmark |
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